大規模な災害が発生すると、家や財産を失う物理的な被害とともに、心に深い傷を負う被災者も数多く存在します。地震や台風、水害などの自然災害の後、被災者の心のケアは復興における重要な課題となっています。そんな中、注目されているのが「傾聴ボランティア」の存在です。
傾聴とは、相手の話に真摯に耳を傾け、共感的な理解を示しながら話を聴く技術です。災害後の混乱期において、誰かに話を聴いてもらうことで心の整理ができ、少しずつ前に進む力が生まれてきます。
しかし、「ただ話を聴く」という一見シンプルに思えるこの行為には、実は専門的な知識と技術が必要とされます。被災者の心情に寄り添い、適切な距離感を保ちながら話を聴くには、体系的な学びが欠かせません。
本記事では、災害時における傾聴ボランティアの役割と重要性、そして傾聴スキルを身につけるための方法について詳しく解説します。被災地支援に関心のある方、人の心のケアに携わりたいと考えている方に、傾聴サポーターとしての第一歩を踏み出すためのヒントをお届けします。
1. 被災者の心を支える「傾聴ボランティア」とは？災害時のメンタルケアに不可欠な存在
災害発生後、物理的な支援と同様に重要なのが被災者の心理的なケアです。その最前線で活躍するのが「傾聴ボランティア」です。彼らは単に話を聞くだけではなく、被災者の心の傷に寄り添い、回復への第一歩を支える重要な役割を担っています。
傾聴ボランティアとは、特別な資格を必要とせず、「聴く力」を活かして被災者に寄り添う活動を行う人々のことです。彼らは被災者が感じる不安や悲しみ、怒りといった感情を受け止め、その存在を認めることで心の安定を促します。
災害直後、被災者は家族の安否確認や生活再建など目の前の課題に追われ、自分の心の状態に目を向ける余裕がありません。しかし時間の経過とともに、喪失感やPTSD（心的外傷後ストレス障害）などの心理的問題が表面化することがあります。日本赤十字社の調査によれば、大規模災害後に何らかの心理的ストレス反応を示す被災者は約7割にも上るとされています。
傾聴ボランティアは、専門家ではないからこそできる「普通の会話」を通じて被災者に安心感を与えます。東日本大震災後に活動した傾聴ボランティア団体「心のケア・いわて」の活動では、継続的な傾聴支援を受けた被災者の多くに精神的な安定が見られたという報告があります。
特に高齢者や子どもなど災害弱者と呼ばれる人々には、傾聴ボランティアの存在が大きな支えとなります。話を聞いてもらえることで孤独感が軽減され、自分の状況を整理する機会にもなるのです。
ただし、傾聴ボランティアには限界もあります。深刻な精神的問題を抱える被災者には、臨床心理士や精神科医などの専門家による支援が必要です。傾聴ボランティアは、そのような専門的ケアが必要なケースを見極め、適切な窓口へつなぐ「橋渡し」の役割も担っています。
日本では、阪神・淡路大震災以降、災害時のメンタルケアの重要性が認識され、各地で傾聴ボランティアの養成が進んでいます。近年では、日本精神保健福祉士協会や各自治体が主催する傾聴ボランティア養成講座も充実し、災害時に備えた人材育成が行われています。
被災地で必要とされるのは、物資や住居だけではありません。心の復興なくして真の復興はないのです。傾聴ボランティアは、目に見えない心の傷に寄り添い、被災者一人ひとりの回復を支える、災害復興における重要な存在なのです。
2. 震災後の心の回復を助ける傾聴技術：あなたも始められる被災者支援の第一歩
震災や大規模災害後、被災者が抱える心の傷は目に見えない大きな課題です。物理的な支援だけでなく、精神的なサポートが非常に重要になります。傾聴ボランティアは、特別な資格がなくても始められる、しかし極めて効果的な被災者支援の方法です。まず基本となるのは「聴く姿勢」。被災者の話に集中し、途中で遮らず、相手のペースを尊重することが大切です。また、相づちや頷きなどの「非言語コミュニケーション」も重要で、「あなたの話を聴いています」というメッセージを伝えます。質問をする際は「はい・いいえ」で答えられる閉じた質問ではなく、「どのように感じましたか？」などの開かれた質問を心がけましょう。さらに、相手の言葉を言い換えて返す「言い換え」や感情に共感する「感情の反映」も効果的です。ただし、安易な励ましや解決策の提示は避け、まずは相手の話を受け止めることを優先してください。東日本大震災後の支援活動でも、日本赤十字社や公益社団法人日本心理臨床学会による傾聴ボランティアが被災者の心の回復に大きく貢献しました。傾聴の技術を身につけることは、災害時だけでなく日常生活においても人間関係を深める貴重なスキルとなります。被災地支援の第一歩として、まずは傾聴の基本を学んでみませんか。
3. 「ただ聴く」が人を救う：災害時のこころのケアに求められる傾聴ボランティアの専門性と養成講座
災害被災者の心のケアにおいて「ただ聴く」という行為には深い意味があります。傾聴ボランティアは単に会話をするのではなく、被災者の言葉に真摯に耳を傾け、その方の心の内側に寄り添う存在です。この「聴く」という行為が持つ力は、専門的な知識と技術に裏打ちされたものである必要があります。
傾聴ボランティアに必要な専門性は、まず「非審判的態度」が挙げられます。被災者の言葉や感情を評価せず、あるがままを受け止める姿勢が重要です。次に「共感的理解」として、相手の立場に立って気持ちを理解しようとする態度。そして「自己一致」という、自分自身の感情も誠実に向き合える姿勢が求められます。これらはカール・ロジャーズのクライアント中心療法に基づく基本的な態度です。
日本赤十字社や各地の社会福祉協議会では、災害時の傾聴ボランティア養成講座を定期的に開催しています。例えば、日本傾聴ボランティア協会主催の養成講座では、基礎編から応用編まで段階的に学ぶことができ、ロールプレイを通じて実践的なスキルを身につけられる構成となっています。
養成講座の内容は主に「傾聴の基本姿勢」「災害被災者の心理」「危機介入の基礎知識」「二次受傷の予防」などで、理論だけでなく実践的なワークも含まれています。特に重要なのは、被災者の話に触発されて自身も心的外傷を負う「二次受傷」への対策です。ボランティア自身のセルフケアも学ぶ必要があります。
実際の被災地での活動では、傾聴ボランティアは仮設住宅や避難所を巡回し、被災者との信頼関係を少しずつ構築していきます。阪神・淡路大震災や東日本大震災での実例では、継続的な傾聴活動が被災者の孤独感の軽減やPTSD予防に効果があったことが報告されています。
専門家である臨床心理士と連携しながら活動することも多く、傾聴ボランティアは専門家と被災者をつなぐ架け橋としての役割も担います。重度のトラウマや自殺リスクを察知した場合には、専門家へつなぐ判断も求められる重要な任務です。
傾聴ボランティアの養成は一朝一夕にはできません。継続的な学びと実践、そして振り返りの過程を通じて、真に人の心に寄り添える傾聴者へと成長していくのです。災害大国日本において、心のケアを担う傾聴ボランティアの存在は、今後ますます重要性を増していくでしょう。
