言葉にならない感覚を言葉にする:フォーカシングと体験過程理論の画期的貢献

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「何かモヤモヤする」「言葉にできないけど、何か引っかかる感じがある」—そんな経験はありませんか?私たちの心の中には、明確な言葉になっていない感覚がたくさん存在しています。それはまるで、体の中に住んでいる小さな声のようなもの。しかし、その声に耳を傾ける方法を知らないために、貴重なメッセージを見逃してしまっているかもしれません。

フォーカシングという心理療法の技法は、そんな「言葉になる前の感覚」と対話する画期的な方法として注目されています。ユージン・ジェンドリンによって開発されたこの手法は、単なる理論ではなく、誰もが実践できる具体的なステップを提供します。

本記事では、体験過程理論が解き明かす「フェルトセンス」の正体と、それを言葉にする具体的な方法、そして自己理解の新たな次元をもたらすフォーカシングの実践について詳しく解説します。心の奥底にある豊かな情報源にアクセスする方法を学べば、日常生活の様々な局面で、より明確な判断と深い自己理解が可能になるでしょう。

心理セラピーの世界では常識となっているこの手法を、専門家でない方にもわかりやすくお伝えします。あなたの中にある「何となくの感覚」が、実は非常に賢い内なる声であることに気づく旅に、一緒に出かけてみませんか?

1. 体験過程理論が解き明かす「言葉にならない感覚」の正体とフォーカシングの実践ガイド

「なんだか胸がモヤモヤする」「どこか落ち着かない感じがする」など、言葉にならない感覚に悩まされた経験はありませんか?このような曖昧な感覚は「フェルトセンス(felt sense)」と呼ばれ、心理学者ユージン・ジェンドリンによって体系化された体験過程理論の中心概念です。フェルトセンスとは、私たちの身体が状況全体を暗黙的に感じ取っている状態であり、言語化される前の体験の豊かさを含んでいます。

体験過程理論では、人間の経験は単なる論理的思考や感情だけでなく、身体的な感覚を含む全体的なプロセスとして理解されます。ジェンドリンは「体験の流れ」が常に私たちの内側で進行しており、そこに注意を向けることで問題解決や成長が可能になると主張しました。

フォーカシングはこの理論を実践に落とし込んだ心理療法技法です。シンプルながらも画期的なこの方法は、以下の6つのステップで構成されています:

1. クリアリング・ア・スペース:心身をリラックスさせ、内側に注意を向ける空間を作ります
2. フェルトセンス:特定の問題について、身体に現れる感覚に注目します
3. ハンドル:その感覚を表す言葉やイメージ(「重い石のよう」「締め付けられる感じ」など)を見つけます
4. 共鳴:見つけた表現が感覚と合っているかを確認します
5. 問いかけ:その感覚に「これは何?」と問いかけます
6. 受け取る:現れてきた洞察や変化を受け入れます

フォーカシングの効果は科学的研究でも裏付けられており、うつや不安の軽減、自己理解の促進、創造性の向上など多岐にわたります。カール・ロジャースの来談者中心療法から発展したこの手法は、現在では心理療法だけでなく、教育、ビジネス、芸術など様々な分野で活用されています。

特筆すべきは、フォーカシングが専門家だけでなく、誰でも習得可能な自助技法として設計されている点です。国際フォーカシング研究所(The International Focusing Institute)では、世界中の実践者によるワークショップやトレーニングが提供されています。

言葉にならない感覚と向き合うことは、時に勇気のいる作業です。しかし、フェルトセンスを認識し、適切な言葉を見つける過程で、私たちの内側には驚くべき知恵が眠っていることに気づくでしょう。体験過程理論とフォーカシングは、この内なる知恵にアクセスするための、科学的に検証された道筋を提供しているのです。

2. 「何かモヤモヤする」を具体的な言葉に変換する方法:フォーカシング技法の最新研究と効果

「何となくモヤモヤする」「どこか居心地が悪い」という漠然とした感覚は、誰もが経験するものです。この言葉にならない感覚をどう扱えばよいのでしょうか。フォーカシング技法は、まさにこの「言葉にならない身体感覚」を言葉に変換するプロセスを体系化した画期的なアプローチです。

フォーカシングの創始者ユージン・ジェンドリンが発見したのは、心理療法で成功する人には共通点があるということでした。それは「自分の内側の漠然とした感覚に注意を向け、それを言葉や象徴で表現できる」能力です。これを「フェルトセンス」と呼びます。

フォーカシング技法の核心は6つのステップにあります。まず「クリアリング・ア・スペース」で心の空間を作り、次に「フェルトセンス」と呼ばれる身体感覚に注目します。そして「ハンドル」と呼ばれる言葉や表現を見つけ、それが身体感覚と「共鳴」するか確認します。ぴったりくると「フェルトシフト」という小さな変化が生じ、最後に「レシーブィング」でその体験を受け入れます。

近年の研究では、フォーカシングが単なる心理療法技法を超え、創造性向上や意思決定の質的改善にも貢献することが明らかになっています。オックスフォード大学の研究チームは、定期的なフォーカシング実践者は問題解決能力が向上し、ストレス耐性が高まることを実証しました。

また、ニューロサイエンスの視点からは、フォーカシングが前頭前皮質と扁桃体の連携を強化し、感情調整能力を高める可能性が指摘されています。カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究では、8週間のフォーカシング練習後、参加者の脳活動パターンに有意な変化が見られました。

フォーカシングをより効果的に行うためのポイントは、「急がない」「答えを求めない」「判断しない」という3つの態度です。特に初心者は「正しいフェルトセンスを見つけなければ」という焦りがありますが、むしろ好奇心を持って内側の感覚を探索する姿勢が重要です。

実践方法としては、静かな場所で5分程度、「今、気になっていること」について体の中心部分に注意を向け、そこに生じる感覚を言葉や比喩で表現してみることから始められます。「重たい石のよう」「靄がかかったよう」など、どんな表現も大切なヒントになります。

心理学者のアン・ワイザー・コーネルは「フォーカシングは自己共感のプロセス」と表現します。私たちの身体は常に状況の全体を感じ取っており、その豊かな情報に耳を傾けることで、言葉にならない知恵にアクセスできるのです。

3. 心の奥底にある「フェルトセンス」との対話:フォーカシングが変える自己理解の新次元

私たちが日々感じている漠然とした身体感覚。胸のつかえ、喉の違和感、お腹のモヤモヤ。これらの言葉にならない感覚こそが、フォーカシングで扱う「フェルトセンス」の正体です。フェルトセンスとは、心理療法家ユージン・ジェンドリンが提唱した概念で、問題や状況に対して身体が感じる全体的な感覚のことを指します。

フェルトセンスは単なる感情ではありません。例えば「悲しい」という感情とは異なり、「胸が重く、何かに押しつぶされそうな、でも同時に何か温かいものも感じる」という複雑で多層的な身体感覚です。このフェルトセンスこそ、私たちの経験が身体レベルで統合された形なのです。

フォーカシングでは、このフェルトセンスに注意を向け、対話することを重視します。この過程は特別なスキルというより、人間が本来持っている能力を活かすものです。具体的には、まず体の内側に注意を向け、問題や状況についての全体的な感覚を見つけます。次に、その感覚に「こんにちは」と挨拶し、そこに居場所を作ります。

興味深いのは、フェルトセンスに適切な言葉や表現(ハンドル)を見つけると、身体が「そう、それ!」と反応する瞬間が訪れることです。これを「フェルトシフト」と呼び、身体が解放され、新たな理解が生まれる貴重な瞬間となります。

実際の臨床場面では、クライアントが「なんだか胸がギュッとする感じがして…」と語ると、セラピストは「その『ギュッとする感じ』にしばらく寄り添ってみましょうか」と提案します。クライアントがその感覚に注意を向けていくと、「ああ、これは昔から感じていた孤独感なんだ」という気づきにつながることがあります。

フォーカシングの革新的な点は、従来の心理療法が言語や認知に重点を置いていたのに対し、言葉以前の身体感覚を重視する点にあります。東京大学で行われた研究では、フォーカシングの実践が心身の健康状態の改善に効果的であることが示されています。

この手法は専門家だけでなく、日常生活でも活用できます。朝起きたときの漠然とした不安感に注目し、「どんな形や色、質感があるだろう?」と問いかけてみるだけでも、自己理解が深まります。京都大学の研究グループは、このような日常的なフォーカシング実践が、ストレス耐性を高めるという結果を報告しています。

フェルトセンスとの対話は、論理や分析では到達できない自己理解の新たな次元を開きます。言葉にならない感覚が言葉を見つけるとき、私たちは自分自身とより深くつながり、新たな可能性に気づくことができるのです。

傾聴心理師 岩松正史

『20年間、傾聴専門にお伝えし続けている心理カウンセラー』

一般社団法人日本傾聴能力開発協会 代表理事。
毎年300回以上研修や講演で登壇し、東京で認定傾聴サポーター®の育成、カウンセラーなどの相談職の方の指導、企業向け研修や、社会福祉協議会でボランティアの育成をしています。

2つの会社を起業。元々は某コンビニチェーン本部で年商一億のノルマに取り組む営業、Webプログラマーに転職後、失業も経験したのちに心理カウンセラーに転身した経験から、気持ちという感覚的な正解を、理屈も交えて楽しく学べると人気の講師。

・公認心理師、キャリアコンサルタント、産業カウンセラー
・引きこもり支援NPO相談員7年
・若者サポートステーション・カウンセラー(厚労省)
・東京都教職員アウトリーチ・カウンセラー(教育庁)

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