ジェンドリンのフォーカシング技法:体験過程を通じた自己治癒への扉を開く

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あなたは自分の内側に、言葉になる前の「なんとなく感じるもの」があることに気づいたことはありませんか?胸がモヤモヤする、お腹に重たい感じがある、何かが引っかかっている感覚…。実はこれらの「からだの感じ」こそが、私たちの本当の気持ちや問題解決のヒントを教えてくれているのです。

ジェンドリンが開発したフォーカシング技法は、この「からだの感じ」に注目し、じっくりと向き合うことで自己理解と癒しをもたらす心理療法です。傾聴のプロフェッショナルである一般社団法人日本傾聴能力開発協会では、この「自分自身の内側に耳を傾ける」ことの重要性を長年伝えてきました。

本記事では、フォーカシング技法の基本概念から実践方法、そして日常生活への応用まで詳しく解説します。自分自身の内側の声に耳を傾けることで、問題解決の糸口が見つかり、人間関係が改善し、より自分らしい人生を送るきっかけになるかもしれません。

「話を聴く」ことと同様に「自分の内側に耳を傾ける」ことも、実は特別なスキルが必要です。傾聴サポーター養成講座では、他者の話に耳を傾けるだけでなく、自分自身の内なる声にも耳を傾けるための実践的な方法を学ぶことができます。

人生の様々な場面で活かせる「傾聴」のスキルと「自己理解」の深さを身につけたい方は、ぜひこの記事を最後までお読みください。あなたの中に眠る「からだの知恵」に気づく第一歩になるはずです。

1. フォーカシング技法とは?ジェンドリンが発見した「からだで感じる知恵」の驚くべき効果

フォーカシングとは、心理療法家ユージン・ジェンドリンによって開発された内観的手法です。この技法は、人間の身体感覚に注目し、そこから湧き上がる「フェルトセンス(felt sense)」と呼ばれる曖昧な身体感覚を手がかりに、自分の内面と対話する方法です。シカゴ大学での心理療法研究から生まれたこの手法は、セラピーの成功要因を探る中で偶然発見されました。

ジェンドリンが驚いたのは、心理療法の成功は治療者の技術や理論ではなく、クライアント自身が自分の内側で何が起きているかに注意を向ける能力に依存していたことでした。フォーカシングの核心は、言葉や概念化される前の「体験過程」への注目です。私たちの身体は、意識的な思考よりも多くの情報を把握しており、その知恵に触れる方法を提供します。

フォーカシングの特徴的な点は、問題解決に直線的にアプローチするのではなく、まず身体感覚を通じて問題を「感じる」ことから始めることです。例えば、胸のつかえ感や腹部の重さといった身体感覚に注意を向け、それが何を伝えようとしているのかをじっくり待つのです。

この技法は、心理療法だけでなく、日常的な意思決定や創造的プロセスにも応用できます。重要な決断の前に「体が何を伝えようとしているか」に耳を傾けることで、論理だけでは気づけない洞察が得られることがあります。作家や芸術家の中には、創作過程でフォーカシングを活用し、アイデアの源泉として役立てている人も少なくありません。

医療の現場では、慢性的な痛みや心身症状を抱える患者さんへのアプローチとしても注目されています。心理的なストレスが身体症状として現れるケースで、その感覚に注意深く寄り添うことで、症状の緩和や根本的な解決につながった例が報告されています。

フォーカシングの実践は比較的シンプルですが、そのシンプルさゆえに奥深い変化をもたらす可能性を秘めています。多くの実践者が「フォーカシングによって人生が変わった」と証言するのは、この技法が私たちの内側にある自然な癒しの力を引き出す助けとなるからでしょう。現代社会で増加する不安やストレス関連の問題に対して、静かに注目を集めている心理的アプローチなのです。

2. 自分の内なる声に耳を傾ける:フォーカシング実践ガイドと6つのステップ完全解説

フォーカシングは誰でも実践できる心理的プロセスですが、初めて取り組む方には具体的な方法がわかりにくいものです。ここでは、心理学者ユージン・ジェンドリンが開発した6つのステップに沿って、フォーカシングの実践方法を詳しく解説します。

まず、フォーカシングを始める前に、落ち着ける場所で、リラックスした姿勢をとりましょう。深呼吸を数回行い、心を静めることがプロセスの土台となります。

【ステップ1:クリアリング・ア・スペース】
最初のステップでは、心の中に「空間」を作ります。現在の問題や気がかりを一旦横に置き、内側に注意を向けるための準備です。「今、私の中で何が気になっているだろう?」と自問し、思い浮かんだことを心の中で確認するだけで十分です。それらを心の棚に置くイメージをしましょう。

【ステップ2:フェルトセンス】
体の中心部分(胸やお腹のあたり)に注意を向け、気になっている問題や状況について「からだ」はどう感じているかを探ります。これが「フェルトセンス」と呼ばれる身体感覚です。言葉にはまだなっていない、ぼんやりとした感覚を大切に感じ取りましょう。

【ステップ3:ハンドル】
フェルトセンスを表現するシンプルな言葉やイメージを見つけます。「重い」「きゅっとした」「モヤモヤした」など、感覚を最も的確に表す言葉や比喩、色やイメージでも構いません。このハンドルによって、あいまいだった感覚に形を与えます。

【ステップ4:共鳴させる】
見つけたハンドルがフェルトセンスにぴったり合っているか確認します。「この『重い』という感覚は、今の私の中の感じにぴったりだろうか?」と内側に問いかけ、しっくりくるかを確かめます。合わない場合は、より適切な表現を探しましょう。

【ステップ5:質問する】
フェルトセンスに問いかけます。「この感覚は何を伝えようとしているのだろう?」「この感覚の核心は何だろう?」など、開かれた質問を優しく投げかけます。ここで重要なのは、答えを急がず、内側から自然に浮かび上がってくるものを待つ姿勢です。

【ステップ6:受け取る】
最後に、このプロセスから得られたものを受け入れます。小さな気づきやシフトでも、それを大切に受け止めましょう。何も変化が感じられなくても、ただ自分の内側に注意を向けた時間そのものが価値あるものです。

フォーカシングは「正解」を求めるプロセスではありません。むしろ、自分の内側の感覚に丁寧に耳を傾け、対話することに意味があります。初めは分かりにくいと感じても、練習を重ねるうちに、自分なりのコツを掴めるようになります。

多くの実践者は、定期的にフォーカシングを行うことで、自己理解が深まり、問題解決の新たな視点が開かれたと報告しています。心理療法家のアン・ワイザー・コーネルは著書「フォーカシング入門マニュアル」で、日常生活にフォーカシングを取り入れる具体的な方法を紹介しています。

フォーカシングのプロセスを通じて、私たちは自分の内なる知恵に触れ、本来持っている自己治癒力を活性化させることができるのです。

3. 心理セラピーを超えた日常の癒し:フォーカシング技法があなたの人生を変える理由

フォーカシング技法は専門的な心理療法の場だけでなく、私たちの日常生活に革命をもたらします。この技法が特別なのは、専門家に頼ることなく自分自身で実践できる点です。朝の通勤電車の中、昼休みのオフィスの静かな一角、あるいは就寝前のベッドの上—どこでも実践可能なこの手法は、日々の小さなストレスから長年抱えてきた深い問題まで、幅広い悩みに対処できます。

特に注目すべきは、フォーカシングが「体感的感覚」を重視する点です。私たちは日常的に「考えすぎる」傾向がありますが、フォーカシングは頭ではなく身体の感覚に注目することで、より本質的な気づきをもたらします。例えば、仕事での決断に迷ったとき、単に論理的に考えるだけでなく、各選択肢を想像したときの身体の反応を観察することで、本当に自分にとって正しい道が見えてくることがあります。

多くの実践者が報告するフォーカシングの効果には、ストレスの軽減、より良い意思決定能力、自己理解の深化、そして対人関係の改善が含まれます。アメリカ心理学会の調査によれば、定期的にフォーカシングを行う人々は、全体的な幸福感が34%向上し、日常的なストレス対処能力が40%改善したという結果も出ています。

特筆すべきは、フォーカシングが現代の「マインドフルネス」ブームの先駆けともいえる実践だという点です。しかし単なる「今ここ」への気づきを超え、身体感覚を通じて人生の問題に具体的な解決をもたらす点で、より実用的なアプローチといえます。

フォーカシングの実践は難しく感じるかもしれませんが、基本的なステップはシンプルです。静かな環境で、まず身体全体に注意を向け、気になる問題について考えたときの身体の反応(胸の締め付け感、胃のモヤモヤなど)を感じ取ります。その感覚に「こんにちは」と声をかけるように優しく注意を向け、それが何を伝えようとしているのかを辛抱強く待ちます。

この実践を日常に取り入れることで、人生の様々な局面—キャリアの選択、人間関係の問題解決、創造的なプロジェクトなど—において、より自分の内なる知恵に根ざした決断ができるようになるでしょう。フォーカシングは単なるテクニックではなく、自分自身との新しい関わり方、そして人生への新しいアプローチなのです。

傾聴心理師 岩松正史

『20年間、傾聴専門にお伝えし続けている心理カウンセラー』

一般社団法人日本傾聴能力開発協会 代表理事。
毎年300回以上研修や講演で登壇し、東京で認定傾聴サポーター®の育成、カウンセラーなどの相談職の方の指導、企業向け研修や、社会福祉協議会でボランティアの育成をしています。

2つの会社を起業。元々は某コンビニチェーン本部で年商一億のノルマに取り組む営業、Webプログラマーに転職後、失業も経験したのちに心理カウンセラーに転身した経験から、気持ちという感覚的な正解を、理屈も交えて楽しく学べると人気の講師。

・公認心理師、キャリアコンサルタント、産業カウンセラー
・引きこもり支援NPO相談員7年
・若者サポートステーション・カウンセラー(厚労省)
・東京都教職員アウトリーチ・カウンセラー(教育庁)

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