ロジャーズからジェンドリンへ:人間中心アプローチの進化と革新的展開

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「相手の話を一生懸命聞いているつもりなのに、なぜか心が通じ合わない」
「ただ頷いて聞くだけで、本当に相手のためになっているのだろうか?」

対人支援の現場や、職場での部下の相談、あるいは家庭内での会話において、このようなもどかしさを感じたことはないでしょうか。

心理療法の世界において、カール・ロジャーズが提唱した「来談者中心療法」は、相手を尊重し受容する姿勢の重要性を説き、多くのカウンセラーの指針となってきました。そして、その流れをさらに発展させたのが、ユージン・ジェンドリンです。彼は、言葉になる前の漠然とした身体感覚(フェルトセンス)に焦点を当てることで、より深い自己理解と変化を促すアプローチを確立しました。

この記事では、心理学の歴史を変えたこの二人の巨人の足跡を辿りながら、現代の私たちが日常で活かせる「本物の傾聴」について紐解いていきます。単に相手の言葉をくり返すだけではない、相手の心に響く「伝え返す」技術とはどのようなものでしょうか。

今回ご紹介する内容は、傾聴教育歴20年以上の実績を持つ心理カウンセラーが監修する「傾聴サポーター養成講座」のエッセンスに基づいています。この講座は、専門家を目指す方だけでなく、身近な人との関係を良くしたいと願うすべての方が、ご自身の生活や仕事の中で活用できる「民間資格」として、確かな技術と継続的な学びの場を提供しています。

教科書的な知識にとどまらず、オンラインで実践的に学べる「生きた傾聴」の真髄に触れ、あなたのコミュニケーションをより豊かなものへと進化させるヒントを持ち帰ってください。

1. カール・ロジャーズの「来談者中心療法」から学ぶ、相手を尊重する傾聴の原点

現代の心理カウンセリングや対人援助の現場において、カール・ロジャーズが提唱した「来談者中心療法(Client-Centered Therapy)」は、まさに金字塔とも言える重要な理論です。ロジャーズ以前の心理療法では、治療者が専門知識を用いて患者を分析し、治療するという指示的なアプローチが主流でした。しかしロジャーズは、人間には誰しも自ら成長し、問題を解決しようとする「自己実現傾向」が備わっていると考え、非指示的な関わりの重要性を説きました。

このアプローチにおいて最も重視されるのが、相手を尊重する「傾聴」の姿勢です。ロジャーズは、カウンセラーや支援者に必要な資質として、以下の3つの条件(中核3条件)を挙げています。

まず1つ目は「無条件の肯定的関心(受容)」です。相手の話す内容に対して「良い」「悪い」といった評価や判断を下さず、一人の人間として温かく、ありのままを受け入れる態度を指します。安心感のある受容的な場があって初めて、人は心の奥底にある感情を表現できるようになります。

2つ目は「共感的理解」です。これは単なる同情とは異なります。相手の私的な世界を、あたかも自分自身のことであるかのように感じ取り、その感情の機微を理解しようと努めることです。相手の立場に立って世界を見ることで、深いレベルでの対話が可能になります。

そして3つ目が「自己一致(純粋性)」です。支援者自身が仮面を被らず、自分の感情や体験を偽りなく認識し、ありのままの自分で相手と向き合うことです。専門家としての役割に隠れるのではなく、人間として真摯に関わる姿勢が、相手との信頼関係(ラポール)を築く鍵となります。

ロジャーズの哲学は、単なるカウンセリングの技法にとどまらず、ビジネスにおけるマネジメントや教育現場、そして家族や友人とのコミュニケーションにおいても極めて有効です。「話を聴く」ということは、耳を傾けるだけでなく、相手の存在そのものを尊重し、その人が持つ可能性を信じることでもあります。この原点とも言える深い人間観こそが、後のユージン・ジェンドリンによるフォーカシング指向心理療法へと受け継がれ、さらに具体的な身体感覚へのアプローチとして進化を遂げていくことになります。

2. ジェンドリンが深めた心の理解、言葉にならない感覚に寄り添うことの大切さ

カール・ロジャーズが提唱した人間中心療法(パーソン・センタード・アプローチ)は、クライエントに対する無条件の肯定的配慮や共感的理解を重視し、心理療法の世界に革命をもたらしました。そのロジャーズの共同研究者であり、後に独自の理論を展開したユージン・ジェンドリンは、このアプローチをさらに深く掘り下げ、「体験過程(Experiencing)」という概念を打ち立てました。彼の功績は、対話の中で何が起きているときに人が真に変化するのかを科学的に解明しようとした点にあります。

ジェンドリンの研究において最も革新的だったのは、心理療法が成功する人とそうでない人の決定的な違いを発見したことです。彼は膨大な面接記録を分析し、自分の内側にある「まだ言葉になっていない身体的な感覚」に注意を向け、それを手探りで表現しようとするクライエントほど、回復や自己成長が顕著であることに気づきました。この発見が、後に「フォーカシング」として体系化される技法の基礎となります。

私たちが日常でふと感じる「なんとなくモヤモヤする」「胸の奥がざわざわする」「腑に落ちない」といった感覚は、ジェンドリンによって「フェルトセンス(Felt Sense)」と名付けられました。これは単なる身体的な痛みや生理現象とは異なり、ある状況や問題全体に対する身体的な実感のことを指します。例えば、頭では「この選択が正しいはずだ」と論理的に考えていても、みぞおちのあたりが重く感じるならば、そこには思考だけでは捉えきれない、その人にとっての重要な真実が含まれています。

ロジャーズのアプローチが、クライエントが語る言葉や感情を鏡のように映し出すことに主眼を置いていたとすれば、ジェンドリンのアプローチは「言葉になる手前の、曖昧な身体感覚」そのものに寄り添うことを重視します。多くの現代人は、不快な感覚があるとすぐに原因を分析して解消しようとしたり、無視して思考で解決しようとしたりしがちです。しかし、ジェンドリンは、その意味不明瞭な感覚と共にい続けること(Staying with it)こそが、心理的な変化を生み出す鍵であると説きました。

フェルトセンスに対して、ぴったりくる言葉やイメージが見つかった瞬間、身体がふっと軽くなったり、深い安堵感が生まれたりする現象を「フェルトシフト」と呼びます。これは、滞っていた内的なプロセスが再び流れ出す瞬間であり、本当の意味での理解が訪れたサインです。情報過多な現代社会において、私たちは論理的な判断に追われ、自分の身体が発している微細な声を聞き逃してしまうことがあります。ジェンドリンが深めた「身体の実感に耳を傾ける」というアプローチは、単なるカウンセリング技法の枠を超え、私たちが自分自身との深いつながりを取り戻し、より豊かに生きるための本質的な知恵を提供しているのです。

3. 単にくり返すだけではない、20年の実績が教える「伝え返す」技術の本質

カウンセリングや対人援助の学習を始めたばかりの人が、最初にぶつかる壁の一つが「伝え返し」の解釈です。カール・ロジャーズが提唱した来談者中心療法において、クライエントの言葉を反復すること(リフレクション)は基本技法とされていますが、これを単なる「オウム返し」と捉えてしまうと、対話は極めて表面的で機械的なものになってしまいます。

長年、臨床現場に身を置き、数多くのクライエントと向き合い続けてきた経験から断言できるのは、効果的な伝え返しとは「言葉の反復」ではなく、「意味と感情の反射」であるということです。ロジャーズ自身も晩年、技法としての反射が独り歩きし、心を伴わないテクニックとして広まることに懸念を示していました。真の共感的理解に基づいた伝え返しとは、相手が発した言葉そのものではなく、その言葉の奥にある「言わんとしていること」や「その瞬間に体験している感情の揺らぎ」を汲み取り、鏡のように映し出す行為を指します。

ここで重要になるのが、ロジャーズの協力者であり、後にフォーカシング指向心理療法を確立したユージン・ジェンドリンの視点です。ジェンドリンは、心理療法が成功するクライエントとそうでないクライエントの違いを研究し、成功する人はセッション中に自分自身の身体的な感覚、いわゆる「フェルトセンス」に注意を向けていることを発見しました。

この視点を取り入れると、「伝え返す」という技術の本質が劇的に変わります。単に相手の話した事実関係を要約して返すのではなく、相手がまだ明確な言葉にできていない、身体で感じている漠然とした感覚に対して言葉を投げかけるのです。例えば、「辛かったんですね」と感情のラベルを貼るだけでなく、「胸のあたりが締め付けられるような、重苦しい感じが続いているのですね」と、相手の実感に触れるような返し方をすることで、クライエントは自分の内側にある感覚と深くつながることができます。

20年以上にわたるカウンセリングの実践知が見出したのは、優れた伝え返しは相手に「私の言った通りだ」と思わせるだけでなく、「ああ、私はまさにそう感じていたんだ」という深い納得感(フェルトシフト)をもたらすという事実です。これは言葉によるコミュニケーションを超えた、実存的な共鳴とも言えます。

現代のメンタルヘルスケアにおいて、ロジャーズの受容と共感の精神は依然として土台ですが、ジェンドリンの体験過程理論を統合することで、そのアプローチはより立体的でダイナミックなものへと進化しています。相手の言葉尻を追うのではなく、その声のトーン、呼吸、そして沈黙の中に漂う「意味の感覚」に耳を傾けること。それこそが、相談者の自己治癒力を最大限に引き出す、プロフェッショナルの「伝え返す」技術なのです。

4. 専門家でなくても身につけられる、日常生活や仕事で活かすための傾聴スキル

カール・ロジャーズが提唱し、ユージン・ジェンドリンが発展させた人間中心アプローチやフォーカシング指向の考え方は、決して心理カウンセラーや精神科医といった専門家だけのものではありません。むしろ、ビジネスシーンにおけるチームマネジメントや、家庭内でのパートナーや子供との対話といった日常的な場面でこそ、その真価を発揮します。「聴く力」は、現代社会において最も強力なコミュニケーションツールの一つです。ここでは、心理学の理論を背景にしつつ、誰でも明日から実践できる具体的な傾聴スキルを紹介します。

まず基本となるのは、ロジャーズが重視した「評価や判断を保留する」姿勢です。部下が悩み相談に来たときや、家族が愚痴をこぼしたとき、私たちはつい「それは君が悪いよ」「こうすれば解決するよ」とアドバイスや評価をしがちです。しかし、まずは自分の価値観を脇に置き、相手が感じている世界をそのまま受け止めることが信頼関係構築の第一歩です。これを日常で実践するには、「アドバイスをしたくなったら、一度深呼吸して飲み込む」というシンプルなルールを設けるだけで会話の質が劇的に変わります。

次に、ジェンドリンの視点を取り入れたより深い傾聴の技術として、「言葉になっていない感覚(フェルトセンス)を待つ」というスキルがあります。会話の中で相手が急に黙り込んだり、「なんて言うか……」「うーん」と言葉に詰まったりする瞬間があります。多くの人はこの沈黙を気まずく感じて、すぐに別の話題を振ったり質問を重ねたりしてしまいます。しかし、この沈黙こそが、相手が自分の内側の感覚に触れ、新しい気づきを得ようとしている重要なプロセスなのです。ここで焦らず、温かい眼差しで相手が言葉を見つけるのを待つことができれば、表面的な会話を超えた深い対話が生まれます。

また、具体的なテクニックとして有効なのが「リフレクション(伝え返し)」です。単なるオウム返しではなく、相手が発した言葉の中から、特に感情が込められている部分や、重要だと思われるキーワードを拾って鏡のように返します。例えば、「昨日の会議ですごく緊張して、頭が真っ白になったんだ」と言われたら、「緊張して、真っ白になってしまったんだね」と返します。これにより、相手は「自分の話をしっかり聴いてもらえている」「理解されている」という安心感を得ることができます。

ビジネスの現場であれば、これらのスキルは「心理的安全性」の向上に直結します。上司が部下の話を否定せずに聴き、言葉にならない違和感や提案を待つ姿勢を見せることで、チーム内の情報共有が活発化し、イノベーションが生まれやすい土壌が育ちます。

傾聴スキルは、特別な才能ではなく、トレーニングによって誰でも習得可能な技術です。まずは、目の前の相手の話を「ただ聴く」時間を意識的に作ることから始めてみてください。相手の背景にある感情や、まだ言葉にならない想いに耳を澄ませることで、人間関係はより豊かで創造的なものへと進化していくでしょう。

5. オンラインで深く学べる理由、傾聴サポーター養成講座が提供する継続的な成長の場

かつて心理学やカウンセリングの学習といえば、対面での実習が不可欠であると考えられてきました。空気感や微細な身体感覚を共有することが、ロジャーズの説く「受容」や「共感」を学ぶ上で重要だとされていたからです。しかし、通信技術の発展と生活様式の変化に伴い、オンラインでの学習環境は劇的に進化しました。特に、現在注目を集めている「傾聴サポーター養成講座」のようなプログラムでは、オンラインならではの利点を活かし、対面以上に深く、かつ継続的に学べる仕組みが構築されています。

オンラインで傾聴を学ぶ最大のメリットは、「安心できる環境」で自己探索ができる点にあります。ジェンドリンが提唱したフォーカシング指向のアプローチにおいて、自身の内側にある「フェルトセンス(実感)」に触れるためには、学習者自身がリラックスしていることが重要です。自宅などの慣れ親しんだ空間から参加することで、受講者は緊張を解きほぐしやすく、より深いレベルでの自己一致や自己理解が進む傾向にあります。

また、Zoomなどのビデオ会議システムを活用した実習は、非言語コミュニケーションの感度を高めるトレーニングとしても機能します。画面越しであっても、相手の表情の変化、声のトーン、呼吸のリズムに集中することで、物理的な距離を超えた心理的なつながりを築く技術が磨かれます。これは、現代のカウンセリング現場で需要が高まるオンラインカウンセリングの実践スキルに直結するものです。

さらに、一般社団法人日本傾聴能力開発協会などが展開する傾聴サポーター養成講座の特徴は、単なる知識の伝達にとどまらず、継続的な「実践の場」を提供している点にあります。傾聴力は一朝一夕に身につくものではなく、繰り返し練習し、フィードバックを受けるプロセスが不可欠です。オンライン講座であれば、全国どこからでもアクセスできるため、志を同じくする仲間と定期的に練習会を行い、互いに研鑽し合うコミュニティを形成しやすくなります。

ロジャーズが目指した「人間中心」の態度は、孤立した学習ではなく、他者との関わり合いの中でこそ育まれます。オンラインというツールは、地理的な制約を取り払い、多様な背景を持つ人々との出会いを創出しました。継続的に学び、実践し、振り返るサイクルを生活の中に組み込めるオンライン講座は、現代における人間中心アプローチの学びの形として、最も合理的かつ効果的な選択肢の一つと言えるでしょう。

傾聴心理師 岩松正史

『20年間、傾聴専門にお伝えし続けている心理カウンセラー』

一般社団法人日本傾聴能力開発協会 代表理事。
毎年300回以上研修や講演で登壇し、東京で認定傾聴サポーター®の育成、カウンセラーなどの相談職の方の指導、企業向け研修や、社会福祉協議会でボランティアの育成をしています。

2つの会社を起業。元々は某コンビニチェーン本部で年商一億のノルマに取り組む営業、Webプログラマーに転職後、失業も経験したのちに心理カウンセラーに転身した経験から、気持ちという感覚的な正解を、理屈も交えて楽しく学べると人気の講師。

・公認心理師、キャリアコンサルタント、産業カウンセラー
・引きこもり支援NPO相談員7年
・若者サポートステーション・カウンセラー(厚労省)
・東京都教職員アウトリーチ・カウンセラー(教育庁)

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